Wednesday 7 April 2010

ウォンバットの事

6日、メルボルン北部で前夜キャンピング・カーに宿泊した60歳の男性が朝7時前車外に出た際、車の下から現れたウォンバットに襲われ負傷する事件が起きたとか。男性はウォンバットに足や腕を引っかかれながら近くにあった斧で応戦し撃退。すぐに病院に搬送され、命に別状はないとか。

環境保護団体関係者の話では、これまでウォンバットが人間を襲った例はなく、男性を襲ったウォンバットは疥癬を患っていた可能性があると指摘。痒みで他者の干渉に耐えられない状態にあり、人間を敵と看做したのではないか、との事。このニュースを聞いて、かつて日本の動物園で見た1頭のウォンバットのことを思い出した。

数年前のある日、地域の広報誌か何かで近所の動物園にウォンバットがいることを知った私。ウォンバットは豪タスマニア島と大陸南部の一部だけに生息する珍しい哺乳類。私はそれまで本物のウォンバットを見たことがなかったが、子供の頃一時オーストラリアで暮らしていたダーさんは

「ウォンバット見たことあるで。かわいいで」

と言う。次の休みに実際に姿を確認しに行こうという話になり、ある冬の日曜の午後その動物園を訪ねた。晴れてはいたが頬にひんやり冷たい風を感じつつニホンザル、ヒツジ、マーラー、ワラビーなどを見学。やがてウォンバットのコーナーへ。

地面のあちこちに50cmくらいの丸っこい茶鼠色の胴体がいくつか確認できたが、動き出す気配はない。私が「ウォンバット、全然動いてないじゃん。寝てるだけじゃん」と不平を漏らすと、かの地で度々動物園に連れて行ってもらったというダーさんは

「ウォンバットは夜行性やから、これが普通やねん」

と妙に得意げだ。何だそりゃ。昼間眠る動物を園でわざわざ公開する意味はあるのか?と訝しく思い始めた時、元気に動き回る1頭が視界に入ってきた。丸い体をゆさゆさ揺らしながら短い足で歩く様子が愛らしい。うおー、こいつは確かにかわいいぜ!

参考までに、動くウォンバットはこんな感じ。容姿からは想像つきにくいが、走ると結構早い。



しばし二人で目を細めていたのだが、やがてそのウォンバットの様子がやや不自然なのに気がついた。どこがおかしい?さらに見つめること数分。よくよく見ると、そのウォンバットは半径1mほどの円を描きながらひたすら同じ場所を同じペースで回り続けていたのだ。さらには、人に見られるのも嫌いだったらしく、私たちの視線に気がついたのか徐々に軌道をずらし、ついには地面の上にいくつか置かれた土管の一つにすっぽり隠れ、こちらからは見えなくなった。その後つま先立ちで確認したが、やはり同じペースでグルグル回っているようだった。

生まれ育ったオーストラリアから思いがけずはるばる日本に連れて来られて、精神を病んでしまったのだろうか。どこを目指しているのか一心不乱に歩き続けるウォンバットを見て、悲しい気持ちになったのを覚えている。

あのウォンバットは今どうしているのだろう。相変わらず動物園の柵の中をグルグル回っているのだろうか。生まれ故郷に帰るのを夢見ながら。

Wombat Attacks Man In Flowerdale, Victoria, Australia


ウォンバットのにっき (児童図書館・絵本の部屋)
ブルース ホワットリー

ウォンバットのにっき (児童図書館・絵本の部屋)
365まいにちペンギン はなくそ ゆらゆらばしのうえで (日本傑作絵本シリーズ) ポケパークWii ~ピカチュウの大冒険~ 特典 Wiiリモコン用ピカチュウ3Dステッカー付き だいじょうぶ だいじょうぶ (講談社の創作絵本)
by G-Tools

No comments:

Post a Comment