Saturday 6 March 2010

雹!!

それはいつもの平和な土曜の午後だった。私は日本から昨日船便で届いたばかりの「リアル」9巻を読み返していた。ああ、やっぱり井上雄彦はいい。

ダーさんが仕事から帰ってきた3時前、辺りが暗くなっているのに気がついた。一雨来そうだ。表に干していた布団カバーを半乾きではあったが取り込んだ。

ほどなくして、外から

「ボトボトボト!」

と雨音にしては太く低い音が一斉に聞こえてきた。窓越しに表を見ると、白く小さな塊が地面のあちこちに散らばっている。雹か。メルボルンは雹が降りやすい地域のようで、数ヶ月に一度は突然の大きな雨音に驚かされる。

外に出て雹を一粒拾ってみた。直径2cmくらいある。今日のはいつもより大き目のようだ。まあ、いつものように直に止むだろう。

部屋に戻ると、ダーさんが

「これって雨も混じってるやんな。ちょっと洗車してくる」

と言い出した。メルボルンは現在慢性的な水不足により水道水に利用制限があり、一般家庭の洗車においてバケツに入れた水を使用することは禁じられている。そのため、ダーさんは雨が降る度その水滴を利用して洗車をするのが常。

「今日の雹はちょっと大きいよ!当たったら痛いよ!止めとけば?」

と忠告しても聞く耳を持たない。雹があちこちに跳ね当たる音が一層強くなる中、ダーさんは洗剤を染み込ませたスポンジを持って表に飛び出した。そして、屋根のない所に出るや即座に踵を返して戻ってきた。

「……これ、痛いわ」

だからそう言ってるじゃん!それにしても、今や大声を出さなければ会話が成立しないほど雹の降り落ちる音が激しい。玄関から外の通りを眺めた。いつもならそろそろ止む頃なのに、今や降り始めより勢いが増している。こんな天気は今まで見たことがない。ちょっと怖くなってきた。

再び部屋に戻ると、開けっ放しになったリビングと寝室を繋ぐドアの向こうで、床一面が雹に覆われているのが目に入った。その上ではブラインドが風を受けて激しく揺れている。うそ!?雨が降り始める前に窓は閉めたはずなのに!まさか雹でガラスが割れた?それと同時に、部屋の電灯が数回点滅したかと思うと突然消えた。ラジオのデジタル時計、テレビの主電源、モデムのライトも一斉に消えた。停電か・・・。

ダーさんが靴を履いたまま寝室に入ると、窓が割れたのではなく、私の閉め具合が甘かったため強風で開いただけだったことが分かった。あー、良かった。

今度は窓をきちんと閉めたのを確認し、カーペットやベッドの上に散らばった数え切れない雹の粒を、ダーさんと一緒に溶けないうちに拾い始めた。雹は大きいもので直径3cmはあった。つい先ほどまで平穏な午後を満喫していたのが一転、思いがけない災害に見舞われ若干ショックを受けていたが、よくよく考えたら阪神大震災の経験と比べればこの状況は何でもないことに気がついた。あの時は、それきり二度と同じ屋根の下で眠ることができなかったのだから。

雹をかき集め、窓回りや床の濡れた箇所を拭くと一旦落ち着いた。しかし、テレビも見れない、ネットも使えないとあっては、近隣一帯の状況が分からず不安。MP3プレーヤーでFMを聞いてみたが、各局とも音楽しか流れていない。雨脚がようやく弱まり少し気分が落ち着いたので、昼寝を決め込むことにした。

目が覚めると5時。停電が始まってから2時間を過ぎた。外はまだシトシトと雨が降り続いている。電気はまだ戻っていない。何だかお腹が空いてきた。このまま電気が戻らなかったら晩御飯はどうしよう?うちのコンロは電気なのだ。電気を使わずに食べられそうなもの……生野菜とシリアル、チョコレート、クラッカーくらいしかない。けれど、先日ハイチやチリで地震の被害に遭った人の事を考えれば下らない悩みだ。電気が戻らないまま夜になったら、何をして過ごそう。ちょうど「リアル」で脊髄損傷のため入院中の登場人物が夜中に目を覚まし、

「もうこのまま朝が来ないのではないか、と将来が不安になる」

と語るシーンを読んだばかりだ。怖い!・・・いや、ダーさんもいるし雨風しのげてプライバシーも十分守られているのだから、何も問題はないではないか。水も出てるし。

そんな事をつらつらと考えていた5時半過ぎ、キッチンでかすかなパチッという音がした後、冷蔵庫がウーンと低く唸り出した。ラジオの時計も「12:00」で点滅している。電気が戻った!作業してくださった皆さん、ありがとう!!おかげで暗闇の中で長い夜を過ごさずに済んだ!月並みだけれど、いかに自分が普段電力に依存した生活を送っているのか思い知らされる。

6時のTVニュースによると、今日の雹嵐は地元の人もかつて経験したことがないようなものだったとか。テニスボール大の雹で車の窓ガラスが割れる被害を受けた地域もあり、シティ周辺の道路は川ができていた。



主要駅や映画館は閉鎖。「怖かった」とコメントする女性もいた。停電は1万戸に及び、うち2000戸はニュース放映時の段階ではまだ回復していなかったとか。

なんだ、うちは随分軽い被害で済んだんだな。いやいや、それでも自然の脅威を思い出すには十分な迫力でしたよ。


角利(KAKURI) 緊急避難セット KDX-300

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