Sunday 27 November 2011

お名刺頂戴 両手か片手か

先日、うちのアパートを管理している不動産屋からダーさん宛にメールが届いた。大家さんの税金絡みで、物件の査定のため不動産鑑定士が部屋の中に入るという。ダーさんは日中仕事に出かけているので、私が相手をすることに。


来訪はある日の午後を指定されたが、「留守の場合は合鍵で勝手に入るのでお構いなく」という話。そうは言われても、自分がいない間に他人が家に入るというのも不安なので、その日は出かけず来客を待つことに。「午後」というだけで何時とも分からず、待ちくたびれた私はやがてソファでウトウト……。

突然「ドンドンドン!」とドアを叩く音。来た!慌てて起き上がろうとすると、勝手にドアが開いた。入ってきたのは初老の男性と、20代と思しき女性。二人は中に人がいたとは思わなかったようで一瞬驚いた様子を見せたが、女性は「ハーイ!ご主人から私たちのこと聞いてるわよね?」。ただでさえ普段英語の会話に慣れていないうえ寝ぼけ頭で、不動産屋に顕著な早口のテンポにあたふたしていると、二人は部屋をぐるりと見回しながらどんどん部屋の奥へ。男性は本棚に視線をやると唐突に

「君はバスケをするの?」

と聞いてきた。えっ、何故にバスケ?どうやら本棚に並ぶ「SLAM DUNK 完全版」全24巻に目が止まったらしい。いえ、それはただのマンガで……。ところで「manga」って言って通じるのかな?メルボルンの本屋には「Manga」セクションがある店も見かけるようになったけど。いやいや、若い人ならともかく年配の人は分からないだろう。えーと、えーと……

“No…”

ああ、また"No"しか言えなかったよ。トホホ。

男性は「おっと、言い忘れてたけど、僕はこういうものです」と名刺を差し出した。私は無意識に少し頭をかがめながら笑顔を作り、それを両手で受け取った。こちらが鑑定士さんのようだ。

次の瞬間、鑑定士さんはどういうわけか私からひょいと名刺を取り上げ、もう一度ゆっくり差し出した。再び笑顔で会釈しつつ両手で受け取ろうとする私。その時、鑑定士さんがいかにも興味深そうな表情をしているのに気がついた。

……はっ!もしかして、からかわれてる?名刺を両手で恭しく受け取る日本人独特の仕草を、この人は珍しがっているに違いない!

男性が「君はどこの出身?」と聞いてきた。「日本です」と答えると、「ああ、やっぱり。そうじゃないかと思ったよ」と妙に得意気。

「うちの息子は日本語を勉強しててね。『難しい』って言ってた」

あら、そうなんですか?それは奇遇ですね。しかし、気の利いた返事ひとつできないでいるうち、仕事を済ませたらしい二人は「それじゃどうも。お邪魔しましたー」と立ち去った。

再び元の静かな部屋に戻った。早かったな。それにしても気になるのは……次回名刺を貰う機会があったら、どのように振る舞えば良いのだろう。日本式ではへりくだり過ぎなのか?オーストラリアの人は片手で受け取るのが一般的なのか?イメージトレーニングをしてみる。片手でこう……。いや、こんなのぞんざい過ぎるでしょ。無理無理無理!

ネットで調べてみると、「国の内外問わず、名刺は両手で受け取るのが礼儀」とあるけれど、となると不動産鑑定士さんが興味津々だった理由は?


「お辞儀」と「すり足」はなぜ笑われる(日経プレミアシリーズ)
内海 善雄
4532260671

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