Friday 12 February 2010

恐怖のクリアウェイ

メルボルンの路上のパーキングスペースは日本と比べれば格段に豊富。しかし、空いているスペースを見つけたからと言って、即その場に駐車しても大丈夫かというと大間違い。むしろ自殺行為とすら言える。というのも、シティ周辺では駐車違反の取り締まりが格段に厳しいのだ。




路上駐車をする前には、道路脇に立つ駐車ルールを示す標識のチェックが必須。そして、この標識が暗号めいていて、初心者にはなかなか厄介な代物なのだ。

以下、いくつか例を挙げてみたい。

IMGP3298

上: 月~金の午後4時~午後7時、停車不可

左下: サインより左側のエリアにおいて月~土の午前8時~午後4時、15分駐車可

右下: サインより右側のエリアにおいて指定の許可を受けた業務用車両のみ月~土の午前8時~午後4時、駐車可



IMGP3304
上: 毎日午後9時~午前9時、住民等許可を得た車両のみ駐車可。

左下: 許可のない車両はサインより左側のエリアにおいて月~土の午前9時~午後9時、1時間駐車可

右下: 月~土の午前9時~午後9時、サインより右側のエリアにおいて、障害者指定の許可を受けた車両のみ1時間駐車可



普段利用する道路ならともかく、未知の土地ではこの手のややこしい標識とにらめっこしては、

「今の時間なら大丈夫だと思うけど・・・本当に自分の理解で正しいのか?」

としばし逡巡することになる。

かつてダーさんが勤め先の用事でシティのとある会社を訪れた際、駐車チケットの購入が必要な場所に停めたが、いざチケット販売機の前に立った時財布に小銭がないことに気がついた。機械はお札を受け付けないうえ時間がなかったため、チケット買わずにとりあえず取引先に向かうことに。用事を済ませるや慌てて戻ると、車の横には既に違反取締りの係員氏の姿が。係員氏はダーさんが車の主である事に気づき「君、チケット買ってないみたいだけど?」と質問。追い詰められたダーさんは咄嗟に

「・・・チ、チケットの買い方が分かりませんでしたー・・・」

とできるだけアホっぽく答えたという。幸いなことに、係員氏はウケて

“It’s the lamest excuse I’ve ever heard!!(今まで聞いた中で最悪の言い訳だ!!)”

と笑いながら見逃してくれたという。しかし、これはかなりの例外で、ドライバーの言い分など聞く耳持たずで容赦ないのが通常だ。住民用の路上駐車許可証を車外から見える場所に掲げるのを忘れたせいで、自宅の目の前で切符をきられたこともある。急いでいて駐車禁止サインを見逃しレッカー移動されたことも。

我が家ではこの3年間、駐車違反がらみで新しいノートPCが一台買えるくらいの金額をお上に献上してきたのだが、「これも授業料」と自分達に言い聞かせてきた。そして、ようやく行動範囲内ならどこがどの時間危ないかを把握したぞ、というようなつもりでいた。

数ヶ月前のある日、車でダーさんとスーパーに出かけた帰り道、自宅近所のATMに立ち寄ることに。
そのATMはメルボルンでも車やトラム等で交通量がひときわ多い通りに面しているのだが、通常なら常に道路の両端にびっしり詰まっている駐車車両が、どういうわけかその日はほとんど見当たらなかった。思い返せばこの時点で異変に気づくべきだったのだが――。ATMの前に車を横付けしダーさんだけが下車。私はぼんやり助手席で待っていた。

ATMでお金を下ろしているダーさんを眺めていると、彼に見知らぬ男性が近寄り何やら声をかけた。その後ダーさんが驚いた様子でこちらを振り向くのと、うちの車のナンバーを前から確認しようとする中年男性が私の視界に入ってきたのがほぼ同時だった。現金の引出しを終えて駆け寄ってきたダーさんが中年男性に”Excuse me, what...”と声をかけると、男性は

“Clearway.”

と目線を落としたまま呟き、手に持った機械からベローンと出てきたレシートのような紙切れをサッとワイパーに挟むやサササーッと立ち去った。その間、私は車の横に立っていた標識を見上げた。

IMGP3311

赤地に白抜きのCマーク・・・このサインは初めて見るが、どうやら「Clearway(以下クリアウェイ)」の「C」を意味していたようだ。そして、「クリアウェイ」とは渋滞等止むを得ない事情以外では停車不可、というルール。このサインによると「月曜から金曜の午後4時半から6時半まで適用」とあるが、時計を見るとちょうど4時半を過ぎたところだった。クリアウェイの適用時間拡大を巡り、客足の減少を恐れたこの一帯の商店主たちと当局の間で相当もめたことはニュースで知っていたが、私たちの知らないうちに新しいルールは施行されていたようだ。道理でさっきから周辺のお店の人が通りに出てきては、揃いも揃ってこちらを心配げな顔つきで眺めていると思った。

かくして、ATMで100ドルを下ろしている間に117ドルの罰金を課せられることになった。車を停めてから1分も経たない間に問答無用で切符を切られたことでダーさんは怒り心頭だったが、私はなぜか係員のおじさんの気持ちが痛いように分かって何も言えなかった。知らない人を次々に敵に回す辛い仕事だろうな。

クリアウェイ実施の背景には「交通量の多い時間帯におけるトラム(路面電車)のスピードアップ」という目的があったらしいが、調査によると、終点到着までの時間は平均14秒しか短縮されていないらしい。ダメじゃん。クリアウェイ効果ないじゃん。

ともかく、メルボルンのシティ周辺部で妙に空いた駐車エリアを見つけた時は、浮かれて車を停める前にくれぐれもご注意あそばせ、という話。


No parking scheme delivers 'no real benefit' to trams.


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