こちらでの生活で込み入った会話になりそうな場所に行く時は、基本的にダーさんに付いてきてもらうことにしている。メルボルンで暮らし始めて3年経つのに情けない話だが、その方が間違いがないのだ。当然のことながら、英会話はさっぱり上達しない。日本に帰った時、英語ができると勘違いされたら困るだろうなとも考えるが、先のことは心配せずに今を生きることにした。
しかし、時にはふと魔がさして、一人で何とかしてみたい気分になることもある。先日のある晴れた午後その瞬間がやって来て、初めて一人でクリーニング屋に出かけてみることにした。
去年から出しそびれていたダウンジャケットを手に家から5分ほど歩き、大通りに面したクリーニング店の入り口をくぐると、
「ピロピロピローン」
という電子音が頭上から鳴った。日本のクリーニング店と同じだ。応対に出てきたのは初老の男性。お決まりの挨拶をした後、スーッと息を吸って
“I’d like to have this jacket dry-cleaned.”
と行きしな練習したフレーズを一息に言った。
『つっかえずに言えた……良かった……』
と安心したのも束の間、電話番号を尋ねられた。私は
”0, 4, 3……”
とゆっくり数字を言ったつもりだったが、おじさんは理解できなかったようで、無言でボールペンとメモの切れ端を渡された。あー、ダメだったか。実は私が電話番号を伝える時、相手に「?」という顔つきをされる確率がかなり高いのだ。
いつもの事とは言え、日本では問題なくこなせていたことがこの国ではいちいちスムーズにいかず、その度に幼稚園児からやり直しているような気持ちになる。名前はともかく電話番号なんて数字なのに、どうしてうまく伝えられないのだろう。はー、情けな。顔では平常心を装いつつ、内心がっくりしながら店の外へ。
とはいえ、仕事を持っていたり、子供を育てていて学校等と関わりのある日本の人の多くは、英語のやりとりでちょっとした問題が起こることは日常茶飯事だろう。そして、傷つきながらでも英語に慣れる近道を進むのを避けているのは、他ならぬ自分なのだ。
『こんなにくだらないことでグジグジ悩む暇があって、うらやましい』
自分に皮肉を言いながら帰った。
夕食時、電話番号を伝えるのにまたもや失敗した一件をダーさんに話したところ、
「番号言う時、桁はどこで区切った?」
えっ、桁?これは予想外の質問だ。えーと……
「3桁、3桁、4桁…かな?」
日本で市外局番が3桁の電話番号を伝える時と同じだ。すると、ダーさんは
「こっちの人、携帯の番号は大抵『4桁、3桁、3桁』で区切るで」
と言う。えっ、そうなん?
加えて、私の電話番号は10桁で4つの数字しか使われていないため、聞いている側は同じ数字を繰り返されているような気がして混乱するだろう、と言う。ああ、それは確かにある。自分でも時々番号のどこを言っているのか分からなくなる。
「今度4桁、3桁、3桁で試してみたら、伝わるかもしれんで」
そうね……コツも教えてもらったし、きっと次こそ伝わるはず!……多分な。
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